フィクションと劇場型犯罪の世界

TVシリーズ第二弾

 『攻殻機動隊 S.A.C. 2nd GIG』は攻殻機動隊TVシリーズの第二弾に当たる作品で、前作で解散に追い込まれた公安九課が再結成してからのストーリーが描かれている。前作では、サイバー犯罪によるテロリズムと、企業脅迫などを描いていたものの、今作では、アメリカ同時多発テロ事件などに影響を受けて作られた部分があったとのこと。劇場型犯罪に関する要素は、前作と比べ、いくぶんか落ち着いてしまっているものの、スタッフに関しては殆ど、前作のものと同じスタッフが担当しているため、物語の性質としては非常に良いものとなっている。ただし、ストーリーのコンセプトだけは押井守が追加で参加している。

実は原作と相違点がある

 この作品だが、実は原作漫画『攻殻機動隊』や押井守による映画『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』とは、時代設定や主人公草薙素子を含む登場キャラクターの設定、ストーリーを始め多くの相違点がある。故に本作は第三の「攻殻機動隊」とも言われ、原作や映画版では「人形遣い」を中心に話が進行するが、本作品では「もし草薙素子が人形遣いと出会わず、公安9課に残っていたら」という前提に立ったパラレルワールドとして物語が展開されている。

 原作や映画版に対するオマージュが随所に見られるものの、テーマ自体は原作にあるような「電脳化・義体化社会における人間の定義」というものよりも、近未来を舞台に現代社会にも通じる社会問題を主題としている。それ故に、劇場型犯罪と模倣犯という構造を真っ先に描いて絶賛された作品の一つでもあるといえる。

個別の11人

 本作では『S.A.C.』の物語から2年後の西暦2032年が舞台となっている。「個別の11人」を名乗るテロリストの事件を発端にして、公安9課復活の経緯から9課と敵対する内閣情報庁の登場と暗躍、個別の11人事件と、それに伴うクゼの登場からその追跡の模様、その他一話完結のストーリーを織り交ぜながら展開していく。後半は内閣情報庁の情報操作や工作活動によって国民の難民への不信感と反発がさらに増し、その結果として生じた招慰難民の一斉武装蜂起、クゼによる「革命」や自衛軍による出島総攻撃、米帝による出島への核攻撃などが描かれる。

 特にこの個別の11人だが、第1話において中国大使館を占拠した9人のテロリストグループとして、アジア難民の受け入れ即時撤廃と、出島など国内に5箇所ある招慰難民居住区の完全閉鎖を求め、承諾しなければ人質を殺すとの声明を発表したが、県警SWATの突入直前に開始された公安9課による強襲作戦によってテロリストは制圧された。この事件は9課再編の足掛かりとなった。

 事件後、内閣情報庁代表補佐官の合田一人が「個別の11人ウィルス」を作成。このウィルスは、「初期革命評論集」を電脳内に保持していることによって感染するように仕組まれていた。感染者の中から、発症因子を満たしている者のみウィルスが発症し、「難民を攻撃することで難民の蜂起を促す」という行動(「奉仕」と呼ばれる)を始め、最終的には「英雄の最後は死によって締めくくられる」という思想に従って自殺や集団自決をすることになる。ウィルスの発症因子は「義体化率が高い」「義体化以前の生身の時に童貞であった」というものである。また、ウィルスが発症した者は「初期革命評論集」の中に幻の一編「個別の11人」が存在していると思いこみ、「個別の11人」を「聖典」と呼ぶ。

 本作においてはこうした政治的、主張的テロルがある種のテーマとなっているわけだが、これは、アメリカの同時多発テロや九州南西海域工作船事件などに影響を受けたものと言われており、 一定のリアルさを生み出す要因となっていた。

影響を受けたアメリカ同時多発テロ

 アメリカ合衆国で同時多発テロ事件が2001年9月11日に発生しており、2nd GIGでは、9.11以降の戦争を描くことが作品のテーマの一つとなっている。『攻殻機動隊』テレビアニメ化の当初の段階では、『S.A.C.』が全26話で終了する予定であったため、そのようにプロットが構築されていた。『S.A.C.』第2話完成時に急に26話追加して全52話にすることになり、『S.A.C.』の制作と同時に『2nd GIG』のシリーズ構成が行われ、『2nd GIG』にはストーリーコンセプトとして押井守が参加することが決定した。押井は神山に「9.11以降の戦争を描け」というテーマを投げかけ、そこから「招慰難民」という設定が作品の中核に据えられた。

九州南西海域工作船事件

 また、九州南西海域工作船事件からも強い影響を受けている。これは2001年12月22日に、巡視船が不審船と交戦の末、不審船が自爆と思われる爆発を起こし沈没する事件だったのだが、後にこの不審船は、北朝鮮の工作船であることが判明した。この事件を受け、押井は神山に、作品内で不審船を描くよう指示したそうである。神山によると、これが押井の指示の中で一番具体的なものであったとのこと。

変更があった部分

 おそらく詳しい人はご存知だと思うが神山監督自体が『S.A.C.』において「赤報隊」の問題をやり残していたと考えていたことから、本作では、前作におけるサリンジャーに当たるものとして、三島由紀夫が考えられていたらしいのだが、そうなると右翼や在日といったある種のタブーとも言える要素に触れることになる上、更に三島由紀夫の作品をそのような理由で使ったことによって、リアルの右翼団体が会社に殴りこみに来るのではないかという懸念から、断念され、架空の思想家シルベストルという人物に差し替わってしまったのである。

 しかし、これ自体を神山監督は後悔しているようであり、リアルさが失われていったと嘆いているそうである。実際に、劇場型犯罪の新しいカタチや新たな時代のテロルを提示した作品としては評価が高いが、前作などと比べてしまうとどうしてもピントがぼけている感じがしてしまうのはやはりこのせいだとも言える。勿論作品自体が極端につまらないわけではないが、流石にリアリティーや、現実の劇場型犯罪をある意味予言とも言えるほどのリアルさで描き切ったのは本当に見事だったと思う。