フィクションと劇場型犯罪の世界

ただの劇場型犯罪物ではない

 フランスといった海外でも高い評価を受けている漫画家、筒井哲也による日本の漫画であり、映画化なども公開しているこの予告犯だが、これまでの劇場型犯罪がテレビやマスコミを利用したものだったのに比べ、本作ではSNSやネットを利用した劇場型犯罪が描かれている。また、社会的にも問題となっているネットリテラシーの問題や、ネット規制の問題、派遣問題といった様々な社会問題に対しても真っ向から切り込んだ意欲作でありながらも、ただそれだけで終わらせず、ラストになるに従って犯人の真の動機がわかってくるにあたっては感動を禁じ得ない人が続発するという作品になっていた。これは、ただのエンタメ、社会批評マンガではなく、しっかりとした重厚なストーリーなども兼ね揃えたもので、アイロニカルでありながらも、徹底的にリアル指向、そして物語至上であるという部分が非常に高く評価できるかと思う。

 また、現在は、テレビドラマ化も決定し、その後のお話が近いうちに描かれるそうである。

実は原作と相違点がある

 この作品だが、実は原作漫画『攻殻機動隊』や押井守による映画『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』とは、時代設定や主人公草薙素子を含む登場キャラクターの設定、ストーリーを始め多くの相違点がある。故に本作は第三の「攻殻機動隊」とも言われ、原作や映画版では「人形遣い」を中心に話が進行するが、本作品では「もし草薙素子が人形遣いと出会わず、公安9課に残っていたら」という前提に立ったパラレルワールドとして物語が展開されている。

 原作や映画版に対するオマージュが随所に見られるものの、テーマ自体は原作にあるような「電脳化・義体化社会における人間の定義」というものよりも、近未来を舞台に現代社会にも通じる社会問題を主題としている。それ故に、劇場型犯罪と模倣犯という構造を真っ先に描いて絶賛された作品の一つでもあるといえる。

あらすじ

 警視庁におけるネット犯罪を主に取り扱う対策部署として設立されたサイバー犯罪対策課は、ある日、動画サイトYOURTUBEに、新聞紙を頭に被った男が、某食品加工会社に放火の予告をしている動画が発見してしまう。その後も幾度と無く犯罪予告を繰り返し、実際に予告通りに暴力行為を行う彼を、警視庁は新聞男と名付け、サイバー犯罪対策課は、その捜査に当たることになる。特にサイバー犯罪対策課は新聞男は複数犯であると睨み、新聞男らの正体や動機を探るべく本腰を入れて調査を始め、翻弄されつつも、少しずつ真相へと迫っていく。

 ネット上では通称「シンブンシ」と呼ばれることの多い新聞男だが、彼らは主にソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)上で失言をして炎上騒ぎを起こした者に対して、犯罪予告をしてその後制裁を行っている。制裁の方法もターゲットを監禁拉致して重傷を負わせる、精神的苦痛を与える、または世間での評判を失墜させるようなケースまで様々である。また、シンブンシ一味の真似をして駅前での殺害予告を実行しようとする者が現れるなど、社会現象を巻き起こすまでなった。ネット上のユーザー投票でも徐々に支持が不支持を上回るようになり、シンブンシはカリスマ的ともいえる人気を博していく。シンブンシの真の目的は?そして警視庁サイバー犯罪対策課の包囲網は彼らを捕えることができるのか? そして最後に待ち受ける衝撃の結末とは?

登場人物

ゲイツ/奥田宏明(おくだ ひろあき)

 インターネットカフェのフラットシート席から、高度なハッキング技術を用い、身元がばれないように『予告』動画を投稿している、予告犯グループ『シンブンシ』の主犯格。元々はIT会社の派遣社員であった彼だが、不当解雇に遭ったことで、日雇いの肉体労働を始めるようになる。その後、ある日をきっかけにして自体は急変し、予告犯としての活動を当時の日雇い労働グループと行い始めるようになる。

カンサイ/葛西智彦(かさい ともひこ)

 大阪出身で長身かつ細身の男。音楽ミュージシャンの道を目指し、バンドを組んでいたが途中で挫折し、日雇い労働を始めるようになる。その後、シンブンシのメンバーとして加わるようになる。バンド解散の日、自殺願望の強いファンの一人から致死量20人分の青酸カリが入った銃弾のペンダントをもらったことがあり、他のメンバーに分けている。

メタボ/寺原慎一(てらはら しんいち)

 福岡出身の小太りの男で、ギャンブルにハマってしまい、家業を引き継ぐことを諦めてしまった人物である。「SOLT BANK HAWKS」と書かれた帽子をかぶっており、ホークスファンであることがバレバレだとイジられていた時期がある。

ノビタ/木村浩一(きむら こういち)

 宮城出身の眼鏡をかけた男で、無口かつ女性と上手く話すことができない特徴を持つ。高校卒業以降引きこもりだったが、父親を腎不全で亡くしたことをきっかけに実家を追い出される。

吉野絵里香(よしの えりか)

 警視庁のサイバー犯罪対策課の班長。非常にきれいな見た目とは裏腹に、犯罪者に対して容赦がないところもあるのだが、わずか26歳で警部補に上り詰めたエリートで、シンブンシ一味の追跡に執念を燃やす。青木逮捕に際し、シンブンシ一味の逮捕に失敗したとして辞職届を出したり、高額の機械を自腹で買うなど、本事件に非常に執着している。

ターゲットにされた人物・企業・団体

食品加工会社

 石川県K市にある食品加工業者。食中毒事件を起こし記者会見を開いたが、誠意をもった態度で会見に臨まなかった。

 そのためシンブンシ一味から「しっかり火を通してやる」と予告され、会社の建物を放火された。

藤木秀也(ふじき しゅうや)

 某外食店の元バイト店員で、店の調理器でゴキブリを揚げるという独創的なメニューをソーシャル・ネットワーキング・サービス(mixiだと思われる)の日記で発表したが、たちまち炎上した。

 それによって、「美食の道を追求するべきだ」とシンブンシ一味から予告を受け、揚げゴキブリを食わされることになる。

関修二(せき しゅうじ)

 R大学の元学生で、同じ大学に通う学生が性犯罪事件を起こしたことに対し、被害者の女性を侮蔑した内容のつぶやき(Twitterだと思われる)を残し炎上した。それが原因で就職の内定取り消しを喰らったらしい。

 それにより、シンブンシ一味に拉致され、様々な性的な制裁を受けることとなる。

池端正義(いけはた まさよし)

 某ネットサービス企業に勤める会社員で、採用面接を受けに来た志望者を馬鹿にした内容をネット上(Facebookだと思われる)で実況解説をしたことで、シンブンシのターゲットにされる。

 シンブンシ一味に、暴行実況中継をされてしまうという結末をたどる。

シーガーディアン

 反捕鯨運動などを行っている海外の環境保護団体で、代表者はボブ・パーカーという名の64歳のカナダ人がつとめている。東日本大震災の津波被害の映像を見て「天罰が下った」という内容の書き込みを行ったことで、シンブンシにサイバー攻撃の予告をされる。

設楽木匡志(したらぎ ただし)

 現職の衆議院議員で、未成年者のネット利用規制や匿名掲示板の全面規制などを掲げた法案を立ち上げた上、マスコミなどを利用し、偏向報道や自作自演を行っていたことから、シンブンシのターゲットとなり、殺害予告をされる。

本当に面白い。そして泣ける。さらに考えさせられる

 この作品の一番の魅力は、その劇場型犯罪自体が、最近の時流にあったものであるという部分であるのは間違いないことだが、それ以上に何故こんな行為を繰り返しているのかという真相の部分への導き方が非常に上手いと思ってしまった。ある種の悪趣味な勧善懲悪としての側面を協調しておきながら着地点は全く別の場所にあるという事に、心底感心させられた。勿論、それぞれの取り扱っているテーマは全て現実の問題などを色濃く反映させたもので、その見せ方も非常に上手く、非常にリアリティーが高い上に、劇場型犯罪エンタメとしても最上級のものだと手放しに褒めてしまっても、問題がないレベルの作品に仕上がっていると言わざるを得ない。そして、サイバー犯罪でありながら、その手法がどことなく泥臭いところがあったり、現実的な手法をしっかりと裏打ちして描いているというところには素直に高い評価を下したいと思った。